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DX合体セット「赤羽 勇は二度なく」

ご好評に勝手にお応えして、遂に「赤羽 勇は二度なく」SSBOX(?)化!
六つの誓いが今、一つの勇気になる!

要は、これまで分割で掲載させて頂きました「淫隷学園異聞」を一つの記事にまとめてしまおうってわけです。
使いやす……見やすくなるでしょうし、読み返すにあたってEnne様の仕掛けも色々と確認しやすくなりましょう。

単独で嬉しい、合体するともっと嬉しい。
ホットスポットやモーターマスターもいいけど、どうせならガーディアンもメナゾールも大箱で欲しいよね!という話です。
意味フ


というわけで、この記事限定のエピローグも追加した、真「赤羽 勇は二度なく」、ご照覧あれ。
そして、改めましてこの素晴らしい物語を綴ってくださったEnne様に心底より御礼申し上げます。

私立呼論女子高校。

ある日の深夜、誰にも知られることなく、この学園は魔淫空間に包まれる。
その翌朝、登校してきた生徒たちの様子は平穏そのものであった。
だが――

                     ライブファルコン
超獣天装ライブエンジェル 第0話「赤 羽  勇 は 二度泣く」


いーーーん

決して聞こえることのない音

音波ですらないなにか

それに満たされたここ

そう

校門をくぐるとそこは、いつもと変わらない級友がいて
校舎も、校庭も暖かく少女達を迎え入れる

暖かい、そのふところに…

「おはよ、香奈」
「おはよう、勇。今日は遅刻しなかったわね、えらいえらい」
「あはは……なんたって、今日から新しい先生が来るんでしょ?
 初日から目ぇつけられたくないもんね」
「良い心がけね。さ、行きましょ」

勇、そう
赤羽 勇がいつものように言葉を交わした相手は級友の香奈
ふわふわとウエーブの掛かった、栗色とも、光の具合によっては銀色にも見えたりする髪が揺れ
少しだけ血色の薄い頬が、桜の唇が柔らにほころびる

勇が自分でも知らずときめいてしまう、級友の姿
いつもの見慣れた風景

けれど…

淫隷学園異聞01

香奈は、いつも着ている制服の上着を羽織ってはいず
といって
揺れる髪の下で華奢な肩を守っているのも白いシャツではなく
呼論では着るものの無い筈のセーラーカラー

そして

ただ、それだけ

ふと、気になった

「あ、れ?」
「勇どうかした?」
ほろろん、とまた香奈の顔がほころびる

「あ、あの、か、な?」
「?」

いーん

「香奈、制服、せ、いふ、く、は?」
「なぁに?どこかおかしいかしら?」

いーん

「あ、いや、あ、あの…」
「ほら、タイだって、きちんとしてるし、それとも、カラーがおかしくなってる?」
香奈は後ろを気にするようにこうべを、軽くめぐらせる

いーん

「あ、や、き、きれ」

いーん

「どうしたの勇、なぁに?」

いーん

「綺麗、あ、うん、そう、そうだよ、綺麗」
「??なにが?勇、何見てるのかなぁ?」
香奈は両手を腰に当て、すぃっと上体を勇に向かって突き出す

途端、ふるるんと勇の前で揺れるのは…

「はわっ、あ、はわわ、いっいっ、いや、いやあの、あのその」
「もう~、さっいきましょ」

染まる頬のまま、勇は香奈に手を引かれて教室に急ぐ
もちろん…

自分が同じ姿でいることにも、疑問を抱くこともなく…

「おはよ、香奈、ユウ」
「おはよう真理」
「もー、私のことユウって呼ぶのは、真理だけだよ~」
教室に駆け込んできた二人を机の上についた両手の上からにこやかな顔で迎えたのは真理
ショート気味のボブヘアーがつやつやと光っている
「ふーん、朝っぱらから、てぇつないで登校するかな、このゆりっぷるは?」
「あれ、妬いてくれてるの、真理ったら?」
「ちょ、ちょちょっとまってよ香奈、にこにこして何言ってるのさっ」
「ん?勇はいや?」
「へっ?」
「わたしのこと、嫌い、なのかな?」
香奈の長いまつげがふと伏せられる
「だだだ、だから、それと、これとは…」
「はーいはい、五月だってのに、新婚夫婦はお熱いね」
「ありがと、真理、ほんとうは六月に式を挙げたかったんだけど」
「ぐぅぅぅぅ」

二人にかなう勇ではなかった

淫隷学園異聞02

「それよか、ユウ、今日は淫語からだよ、予習はしてきた?」
「へっ?」
「あら、勇の一番好きな授業なのに?」
「あぅ、どうしよ」
くすりと笑った香奈が柔らに微笑んで
「仕方ないわね、淫語の『あとの時間』で取り戻すのね、付き合ってあげる」
「わ、ホント?ありがとー香奈」
「私はお邪魔かしら?」
「あっ、真理も?」
「やめとこーかな~、新婚さんの邪魔するほど野暮じゃないしー」
「わ、わっお願いします、真理さま、仏様、ダークサ…」
途端、勇は二人からくちびるに人差し指を押し当てられる
「めっ!」
「だめよ?勇、わかっているでしょう?」
しゅんとなる勇
「ごめん、お名前は、淫らに、あ、いやみだりに口に出さないこと…だよね」
「ん」
「わかればよろしい、さっ視聴覚教室に行きましょ」

仲良し三人組は、セーラーカラーを翻しながら
純白のIバッグショーツだけに隠された伸びやかな肢体を急がせるのだった




視聴覚室

整然と並んだ机

つい一月ほど前までは、ヘッドセットをつけた生徒たちが教材と向かい合いやすいように
広めに取ったスペースの左右には高めの仕切りがつけられていたが、いまそれはなくされていて
また、席の一つ一つに据えられていた白いPCと、CRTもすべて撤去され

その代わりにと卓上に並んで、生徒たちを待っているモノは

黒い

頭部をすべて覆うほど大きな、ヘッドセットというよりは、もうヘルメットとでも言うような何か

それを身につける者たちの眼の部分を覆うはずの、今は艶やかに黒光りをしているのは、
シースルーディスプレイ

着席した少女たちは、待ちきれないとでもいう風に、次々にそれを被っていく

ぴん

ぴぃーん、ぴぃーん

ぴんぴん、ぴぃーん

ディスプレイと耳を覆うヘッドフォン、そしてそれを固定するヘッドバンドの首元につけられた金属製の留め金が何か非情な音を立てて
次々次へと少女たちから、それを外すすべを奪ってゆく

そのたびに

「…」
「っ…」
「………」
彼女たちから、吐息ともため息とも、あるいはもっと他の深い何かが、ことり漏らされる

「…、ふぅ、これって着けるときが、一番好きかな」
「……」
「くぅ…、え、ええ、そうね、真理、私もそうかしら、あら、勇、どうかしたの?」
「うぅ、だってぇ、予習のことが…」
「あは、だいじょーぶだって、この真理さんと」
「うふ、香奈さんにまかせておきなさい」
「ありがと、たよりにしてますっ、やっぱり、『ヴァイザー』のメタルベルトが掛かる瞬間って最高だよね」
「あれれ、とたんにそれ?」
「くす、勇らしくなってきたかしら?」
「仕方ないよ、だってもう、自分じゃはずせないんだよ?」
「だねー」
「ええ、何かを、奪って頂いた、捧げられる…、素敵ね」
「香奈は難しく言うから良くわかんないよ」
「そうかしら、勇だって、きっとわかっているはずよ、違うの?」
「ユウ、香奈~、先生がもうお見えになるよ」
「あ、いけない」
「あら、そうね」
小声で話してはいるのだが、どうやら『ヴァイザー』と呼ばれる『それ』を身につけ終わった他の生徒たちも、
それぞれに、これからの授業について、待ちきれない何かを級友たちと共有しあっていたようだ

これでもう、五度目の淫語の授業

二度目、三度目あたりまでは、『それ』を着用することをためらうような動きもあったのだけれど
いま、もしためらう動きがあるとすれば
それは、あまりにも美味と判っている料理の大皿に手を伸ばすのを躊躇うような
そんな動きでしかないようだった

「はい、皆さん、おはようございます、今日は淫語中心のカリキュラムが続く一日ですね?
皆さんもう、授業の流れをつかんできていると思います
この流れの授業は、今後も続きますが、今日で、いままでの淫語Ⅰは終了です、淫語Ⅰの『あと』の時間が終わったら
淫語Ⅱを行うことになります」

にこやかに、語るのはここまで淫語を担当してきた、勇たちのクラスの担任教師でもある淵根百合子
彼女の身を包んでいるのは、
純白のオールインワン、というよりは大胆にサイドが切れ込んだレオタード状のコスチューム
細やかなレースがレオタードのようなそれの胸のカップやボトムに施されているため
彼女のすべてのカーブが、あらゆる部分が、すべて人目に曝されるように考えつくされているといっていい

そして彼女が伴っているのは百合子同様に年若い銀髪の眼鏡を掛けた女性
百合子よりもっと繊細で手が込んだレースで覆い尽くされたビスチェとガーターベルト、ショーツと絹の手袋とストッキング
それらが、こちらは彼女が漂わせる何かが、百合子とは違い
彼女が自らのすべてを見せるために作られている、そんな印象を与える
そう、彼女の纏う雰囲気
銀髪というだけで珍しい存在だとわかるのだが、何より不思議なのは彼女の肌

見るだけで、その肌に触れればきっと柔らな感触を伝えてくるに違いないと思わせるのに
どこか透明感を帯びたその肌は、決して留まってはいない

ブランクノイズ

そうテレビの砂嵐のようなそれがその肌を覆い、
彼女というべきその女性型の何者かを、何者でもない誰か
いや、何者でもある誰か、そういう存在に見せている

淫隷学園異聞03

「皆さんに、ご紹介しますね、こちらがイーズさ、…こほん、失礼しました、イーズ先生です、皆さんの淫語Ⅱを担当してくださいます
イーズ先生は、いわば本校の教頭先生、えー、学園理事筆頭でもいらっしゃいますが、
わざわざ、直接皆さんの指導にあたって下さいます。 ではイーズ先生、お願いします。」

「はい、淵根先生、ありがとうございます、でも、申しましたでしょ?大仰な紹介はいりませんのに」
「はっ、あ、いえ、はい、イーズ先生」
直立しかかる小百合
「あら、それが大仰ですよ、先生も私も、教育者としては同等です、先生の仰る事を、わたくし、いつも傾聴申し上げて…
こほん、ごめんなさいね、皆さん、それこそ大仰ですね?」
イーズの唇、それとも唇に見えるブランクノイズに覆われた何かがほころぶと
そこに浮かぶのは、親しみやすい柔らかな笑みだった

「皆さん、はじめまして、イーズです、淵根先生が仰られたとおり、普段は、学務全般をモニタリングしたり
校外でも皆さんが、ご想像になるような、教務についていますから、なかなかお目にかかれないでいました、
けれど、呼論の学園内では淵根先生や、他の先生方が、熱心な真の教育者として目覚めてくださいましたから
わたしも安心して、校外での学務にここしばらく専念していたの」
イーズはゆっくりと視聴覚室内を見渡す

そして、生徒たちの視線を捉えると、軽く頷いたり、微笑を浮かべたりするのだが
じっとその姿を注視し続けると、ふと、イーズの姿がぶれて見えたり
いま、教卓に向かっていたはずが、自分のすぐ前や横にいたりする、ということを除けば
少女たちに近しい年齢の、優しげな教師の姿そのものに見える

「けれど、校外の教務も、目途がつきましたから、当面、皆さんと時間を過ごせると思います
校内にいるときは、淵根先生たちと同じに、遠慮なく声をかけてくださいね?」

少女たちが、イーズに、行儀良くはい、と応えるのを満足げに聞くと

「では、淵根先生、淫語Ⅰの授業、よろしくお願いいたします、では皆さん、淫語Ⅱの授業でお目にかかりましょうね?」

軽く右手を振ると、イーズの姿が、ぶれ、にじみ、その場には、淵根教諭と少女たちしか残されていなかった

「では、はじめましょう、皆さん、いつもの通り、淫語発声からです」

いん

いん

いん

いん、いん、いん、いん

少女たちが被る『ヴァイザー』のディスプレイ部が緑色に発光すると、校内を満たす、あの『何か』が
生徒たちそれぞれの『ヴァイザー』に流れ始める

そして

「では…」

淵根教諭の先導に従って、少女たちの澄んだ声が、教室内を満たす

もし校外の人間が、少女たちが発する言葉を聞いたなら
思わず耳を疑うか、不快の表情を示すか、それとも、両方の挙句、手当たり次第に、手近の少女の口を塞ごうとするかもしれない

なぜなら、少女たちが発しているのは
あからさまに、卑猥な言葉だったり、生死についての言葉だったりするからだ


淫らがましい言葉や、言葉そのものに、凶悪なエネルギーがこもる言葉

実は、その言葉を発声させることに、それほど意味があるわけではない

少女たちに、ひそかにそれを強いている存在も、最終的に、少女たちが、そのような言葉を
普段から口にするようなことを要点にしているわけでもない

淫語の授業

少なくとも、淵根教諭が担当する淫語Ⅰでは
この学園に集う、育ちの良い少女たちが、普段口にすることを抵抗するような言葉を
『ヴァイザー』の影響下で、心理抵抗を低下させられながら、
しかし繰り返し何度も何度も口にすることで、彼女たちの中に、ある種のストレスを加えることにこそ意味があるといってよい

やがて、少女たちの発する淫らな言葉が、一人、二人、そしてまた一人
次々次と、声にならなくなり
か細い、うめき声とも、嗚咽ともつかないものに変わってゆく頃
少女たちの脳はイーズの調整した『ノイズ』とともに大量の情報に曝されている

その内容を、解析できる者がもしいれば、その者は、情報の内容が、想像されるようなものとはまったく異なる
ごくごく普通の、高校生たちが学ぶべきカリキュラムであると知って首をひねるかもしれない

そう、呼論で、他の授業が行われる分、もし、少女たちの成績が眼に見えて低下していたり
一般社会で通用する常識以外のことばかり身につけて自宅に立ち戻ったりするくらいなら
イーズのようなものが、こんな迂遠な活動をする必要はまったくない

そんな使い捨ての構成員は、いくらでも調達が可能

イーズがここで育てようとしている物とは、格段のレベル差があるのだから

では

繰り返される淫語の発声でストレスをかけられ、さらに処理不能なほどの膨大な情報を脳内に送り込まれているのなら

少女たちが、いま、声にならない、か細い嗚咽に、たまらないものを、滲ませるのは何故だろう
少女たちの頬が、薔薇色に染まっていたり、脳に流される情報の奔流に溺れ、殆ど身動きすら出来ないはずなのに
なおわずかに、身体を捩じらせているのは何故だろう

それは

脳に、大量の情報を送り込まれる

普段ありえない働きをさせられる

それ自身が

少女たちを、深い愉悦の底に突き落としているから

淫語Ⅰ

それは少女たちの脳に、そのようなチャンネル

強制的にノイズとともに情報が送り込まれ、本人の自覚を伴わずに心に蓄積されるそのことを愉悦と捉える

その回路を構築する為の授業なのだから

やがて

ここだけには、いわば想像通りの内容が詰まっているのだが

ダーククロスが与えたいイメージが流れ出す頃

少女たちは味わう感覚と、与えられたイメージを重ね合わせて自らのものとする

それぞれが抱く、最良の感覚と混合させて…


ふつり

『ヴァイザー』から緑の光が消え

しばらくの間、声が少女たちの喉から漏らされていたが

「はい、皆さん、淫語Ⅰとしてはこれが最期の授業ですが、皆さん良く授業に親しんでくれました、
いつもなら、このあとは、授業の深度をより深くするための『お時間』ですが、今日はイーズ先生の淫語Ⅱを受講したあとで
『お時間』に移ることにします、ではイーズ先生」

淵根教諭がイーズの名を口にするとじわりとまたイーズの姿がにじみ出る

「はい、淵根先生、本当によく皆さんをご指導いただけましたね?校外にいる間も学園のことが気になっていましたけれど
淵根先生たちのこと、ご信頼申し上げてよかったです」
「あっ、あ、ありがとうございます、イーズ様」
「あらあら、学園内で、それは~」
「も、もっ申し訳ありません、い、イーズ様ぁ、あ、ちっ、ちっ、違いま、い、イーズ先生、あひっ」
かくんと、淵根教諭がくずおれかかる
「うふ、大丈夫ですか、でもお気持はわかるから…、うん、淵根先生、このあとは『お時間』を過ごしてください」
イーズに抱えられ、優しい言葉をかけられた百合子は感激の余り、言葉もなく口を開いては閉じていたが

「…で、では皆さん、それでは、イーズ先生、お願いいたします…」

かろうじてそれだけ言うと、視聴覚室からよろめきながら出て行った

「さて、淵根先生に負けないように、わたしも頑張りたいと思います、では皆さん、前に出てきて整列なさってね~」

少女たちは、従順に、教卓を背にしたイーズの前に整列しようとする
中には
席を立つのがままならない生徒も数人いたようだったが、それぞれに、級友たちの手が差し伸べられて
やがてイーズの前に整列して、伸びやかな肢体を並べる

「は~い、では淫語Ⅱの授業で使う新しい教材を配ります」

ぱちり

イーズが指を鳴らすと、整列した少女たちの前に、すいすぃすぃっと金属の支柱に支えられた小さな丸テーブルが床からせりあがる

その卓上に載せられているものは…

白い金属製の籠手

かなり大振りの金属環が手首側についていて手先部分の繊細さと合ってはいない気がするが
ひどく巧緻な細工品であろうことはたやすく想像が付く

「さ、手を通してね~、手を差し込むだけでいいのよ~」

生徒たちは返事とともに、指示されたとおりに籠手に手を通す

きちり

軽い音がして、籠手はそれぞれの手にぴったりフィットしてゆく

「はいは~い、ちゃんと動きますかぁ、両手を前に出して動かしてみてね~」

言われたとおりに、両手を握ったり開いたりしてみる少女たち

「大丈夫みたいね、さ、では、今度は両手を軽く後ろで組んでみて」

素直に返事とともに両手を後ろで交差させる少女たち

その途端

「あ…」
「あっ」

驚きの声とともに少女たちの手は重なり合った金属環同士ががっちりとくっつき合って
その自由を奪い
さらに、手先の自由も軽く握られたままで、まったく動かなくなってしまっている

淫隷学園異聞04


「はい、準備できましたね、では淫語Ⅱ授業を始めます」

驚きの覚めやらぬまま、イーズの声に少女たちが眼を上げようとした瞬間

いん

淫隷学園異聞05


『ヴァイザー』のディスプレイに緑の光が点燈し

今度は淫語Ⅰで彼女たちが漏らしていた声どころではないはっきりとした声が

声、声、声が

そして

少女たちが浮かべるのは、苦悶

あまりの快感に、耐えられなくなったものだけが浮かべる苦悶が

意味を成さないかすれ声であったり、長く尾を引く笛のような声であったりする快感の表明とともに
苦悶の表情が生徒たち、少女たちの顔を皆それぞれに彩っていく

ただ、中には

一瞬の苦悶のあと、くすりと微笑む少女もいる

軽く開いた小さな形の良い唇から、わずかな声を漏らしながら

香奈は微笑を浮かべているのだった

淫隷学園異聞06


「いかがです、皆さん、といっても私の声もそのままじゃぁ聞こえていないのかしら?
 でも、あなたたちにもわかりますね~
 うん、洗脳される喜び、うふっ」

意外にも、何人かの生徒たちはイーズの声に頷こうとしたようだった

「あら、あら、素晴らしいわ、淵根先生に感謝しましょうね、皆さん
では、聞こえている方も、まだ聞こえない方にもいずれわかります
淫語Ⅱは洗脳を受けるお時間です、では授業、楽しんでくださいね~」

普通ならこれだけの官能に震える少女たちの肢も、身体も、その場にくず折れてしまいそう
だが、先ほどの籠手がそれを許さない

耳を澄ませば籠手の金属環から高速回転する音が聞こえるかもしれない

どうやら、特別なジャイロのようなものが働いて

重ねられたその手首をがっちりと中空に吊り上げているようだった


そして、十分、あるいは二十分経っただろうか
 
『ヴァイザー』の光が消え

手首の自由が戻り

淫語Ⅱの授業が終わり

指示された生徒たちは、授業の終わりに『ヴァイザー』から与えられた指示通りに、二人、また三人とそれぞれグループを作り
言われた先の部屋にと消えてゆく

そして
その場には

勇 香奈 真理 そしてイーズだけが残された

淫隷学園異聞07

「どうでしたか~、淫語Ⅱ、しっかり身につく授業だったかしら?」
「はい、イーズ先生」
「はぃ」
「はーい」
声を揃えた三人を教卓越しに満足げに見やるイーズ

「ん~、えっと予習をしてこなかったのは今回は勇さんだけだったみたいですねー」
「う、ごめんなさい、イーズ先生」
「何かありましたか?ううん,予習しなかったこと自体はさほど問題はないのよ?
出来なかった理由があったのかしらって?」

片眉を眼鏡の向こうで軽く上げる

「あぅ~」
「失礼します、先生、勇さんは、昨日大変だったんだと思います」
「えーっと、あなたは、香奈さん、ね、『大変』、ですか?」
「はい、勇さんは、お爺様の剣道道場で師範代をしてますから
昨夜は、疲れてそのまま眠ってしまったんだと思うんです」
「あら、勇さんそうなの?」
「は、はい、って香奈、なんでわかるの~」
「んふ、友達だもの」

「なるほど、で お友達の真理さんと一緒に、勇さんの補習を?」
「はい、そのつもりです、香奈と手伝うつもりでーす」
真理も軽く片手を上げて見せる

「仲がいいのはよろしいですね~、それはいいんですけど~、ちょっとお話しましょっか、じゃ、香奈さんからね~」

イーズは、残る二人を席につかせると
香奈と教卓越しに話し出す

「香奈さんの成績は優秀ですね~
適応度がすごく高いですね~」
「ありがとうございます、先生」
「ん~~香奈さんはちゃんと予習は続けていますね~」
「はぃ」
「昨夜は?」
「はぃ、きちんと」
「以前は?」
イーズは手元の資料をぱらぱらとめくりながら尋ねる

「以前、ですか?」
「ええ、淫語の授業が始まる以前」
にこにこと笑うイーズ
応える香奈の表情は勇たちのほうからは見えないが
少しだけ、肩がふるりと震えた気がする

「…たくさん、です」
「たくさん…」
「はぃ、毎日、いいえ、一日に何度も」

香奈の告白に、イーズは表情を変えずにさらさらと何かメモを取っている

「それで、今は?」
「はい、学園でご指示を頂いたときだけ、予習、復習をしています」
「あら、良かったわね」
「はぃ」

こちらで、それを耳にしている二人も驚くというよりは

『ふーん、香奈って、何もしてないかと思ったらずっと努力してたんだね、真理は知ってた?』
『え?あぁなんとなく』
『知らなかったなぁ、どうしてわかったの?』
『あは、なぁんとなくね』
『ふーん』

と香奈の学習態度の優秀さについてぼそぼそと話す

イーズは資料から眼を上げてノイズが覆うその顔を穏やかに香奈に向ける
「なるほど、じゃあ香奈さん、以前のときは、何かイメージして、お勉強をしていたの?」
「はぃ」
「何をイメージしていたのかしら?」

以前の学習態度についてはすらりと返答した香奈だったが

「先生、お答えしなければいけませんか?」
「…ん?」
イーズの眉根が軽く寄せられる

それは、不快の徴ではない
むしろ、今ここの学園にあって
イーズのような存在に、香奈のような、優秀な生徒が、抗うというほどではないにせよ
即答しなかったことに、興味がわいたからだった

「出来れば、答えて欲しいけれど?」
「…あの、先生にだけ、ではいけませんか?」
にっこり笑うイーズ
「はい、かまいませんよ」
「じゃぁ」
香奈はイーズの耳に唇を寄せて何かを囁く

淫隷学園異聞08

「ふんふんふん、なるほどねぇ、あーよくわかりました
 具体的なヒトだったのね~、でも、その方は、香奈さんの気持ちに気づいているの?」
「…いないと思います」
「あ~~、そっか~はい、よくわかりました
 ん、ちょっと戻って待っててね~」
「はぃ」

さらさらさらら、イーズのペンが走っている

『へ~~、香奈って好きなヒトがいるんだ?』
『くす、ええ、そうよ』
『応援するからね、でしょ、真理も?』
『だね、応援するよ』

小声で話す三人をそのままにイーズは、
最初、さらさらと文字でも書いているようだったのが
やがて手の動きのモーションが大きくなっていき

そのうち、ふんふんふんとなにやら、小声で歌を歌うような様子になるとともに

ぶんぶんぶんと大きくペンを走らせる

その様子を注視する三人の視線に気がついたのか
ちろり
唇から舌を覗かせると

「てへ、ごめんごめん、はい、じゃぁ次は真理さん」
と照れ隠しのように真理を前に呼んだ

「えっと、真理さん、あら、真理さんも優秀なのね~」
「あは、ありがとうございます、イーズ先生」
「うんうん、予習復習きっちりしているし、身体能力も抜群じゃない?」
「ユウには負けますけどね」
「ユウ?あぁ勇さんかな?」
「あ、いけない、はいそうです」
「資料で見る限り、勇さんと、真理さんの能力にそれほど差はない気がするんだけど~」
「真剣になれるかどうか、かな、ユウには…こほん、勇さんにはかないません」
「なるほどねぇ、でも仲がいいんだ」
「ですね」
イーズはさらさらとペンを走らせる

「で、香奈さんと、お手伝いしてあげるのね?」
「はーい」
「ふむ、ところで、真理さんは、学習のときに、何かイメージしていますか?」
「…今は、『お姿』と、ごにょごにょです」

ほへっと言う感じで一瞬イーズの動きが止まり、ずり落ちかけた眼鏡の位置を右手で直すと真理の顔をまじまじまじと覗き込む

「ごにょごにょ~?」
「あは、私もイーズ先生にだけってことじゃ駄目でしょうか?」
「あらあら、いいわよ~~」

今度は真理がイーズに耳打ちをする

淫隷学園異聞09

『え~~、真理も誰か好きなヒトいるのかな』
『見たいだわね』
『香奈は知ってるの?』
『私?』
『うん』
『ええ、知っているわ、真理に好きなヒトがいることは』
『ふーん』

ふんふんふんと頷くイーズ
「なるほどなるほど、はいわかりました、わかりましたけど」
イーズは真理の肩越しに勇と香奈の方を見る

「二人は知っているのかしら?」
今度は真理の顔を覗き込むイーズ

「ん~、香奈はわかってると思いますよ」
「あらあら、で、あなたと香奈さんは?」
「もちろん!」
元気よく応える真理

「そっか~~、うん、先生も応援しちゃおう、真理さんと、それから」
イーズは後ろの二人に眼をやって片目を瞑ってみせる
「もちろん、香奈さんの応援も」

「あは、ありがとう先生」
「ありがとうございます、イーズ先生」
イーズは軽く頷くと
「はい、では香奈さん、真理さん、勇さんのお手伝い、お願いしますね?」
「はい」
「はーい」
「うん、いいお返事、じゃ勇さん、しっかりお勉強してらっしゃい
でも 二人とも、仲良しの勇さんだからって手を抜いたら、先生許さないからね~」
仲良し三人を愉しそうに見やる

「はい、イーズ先生」
「はーい」
「あぅ~」

「補習を受ける人は『ヴァイザー』をつけて行うこと、補習のやり方は…あぁ、香奈さんが経験者ですね?」
資料に眼をやるイーズ

「はぃ、先生、二度目の淫語Ⅰのとき、私だけ『ヴァイザー』をどうしてもつけられなくて…」
「そのときは…あぁ、勇さんが?」
「はい、勇さんと真理さんが『授業はきちんと受けようよ』って言って被せてくれました」
「それで、そのあとで補習を受けたのね~」
「はぃ、未熟でした恥ずかしいです」
「ううん、それは違うわ、香奈さん、できないことは問題じゃないの、誰かの手を借りてでも、前に進むのが学生だと先生は思うな」
「そうですね、いい友達がいて幸せです」

「そうね~、はい、じゃぁ今度は香奈さんと真理さんが手を引いてあげるのね、ちょっと羨ましいかな~
 さ、じゃぁいってらっしゃい」

イーズはにこやかに三人を送り出す

補習のための『ヴァイザー』をつけたままの勇の手を引いて
補習室に向かう香奈と真理

「ねぇ、真理も香奈も、好きなヒトいるんだ」
「だよ~」
「ええ、そうね」
「どんなヒト?」
「うーん、鈍感なやつ」
「私のほうも、あまり敏感じゃない方かしら」
「そうなんだ二人とも大変だね?私も応援するから」

勇をはさんでにっこりと笑顔をかわす真理と香奈

淫隷学園異聞10

「ありがと、さーて、香奈さん、でもそんなこと言ってる場合じゃないのがわたしと」
「ええ、真理さんとの間にいらっしゃるわね」
「へ?へ?」

やがて
自習室を巡回してゆくイーズの耳には扉越しに
補習に励む勇の魂ぎるような声が聞こえたのだった




かつり、こつり自習室が並ぶ廊下を歩くイーズの身に
少女たちが奏でる「ノイズ」が降り注いでいる

ノイズ

世界と「生き物」とが奏でる軋み

たださえ、世界にはノイズが満ち満ちているが

イーズが調整した「ノイズ」の影響下にあるものが、
本来属するはずの「世界」と起こす「軋み」がイーズにとっては堪らない美味であり、彼女のエネルギーでもある

だから、イーズはこんな手数のかかることをする

そして

とある部屋でイーズは歩みを止める

くすりと微笑むイーズが扉を開けて見たものは

淫語Ⅱの受講スタイルで、ひとりわずかな声を漏らす淵根 百合子

淫隷学園異聞11

「淵根先生、ううん、二人っきりですからね、百合子って呼んであげたほうがいいかしら?
貴女でテストできたから、淫語Ⅱの導入、ほんとに上手くいったわ~」
「あ…」
イーズに言われ、『ヴァイザー』の下から覗く頬に血色をまた乗せた様だった

淫隷学園異聞12

「ふぅ、淫隷人なら、もっと楽しめる方法もあるでしょ?
それとも、私を待ってたかしら?ご褒美あげましょうか~、ん?」
「ぃ、イーズ、さ、……せ、んせ、イーズ先生、う、嬉しいです、で、でも」
「でも?」
「は、ぃ、生徒たちが、み、みんなが勉学中ですか、ら、私だけご褒美はいただけませ、ん」

百合子がここまで言ったことに、少々驚きながらも、イーズは満足の笑みを上らせる

淫隷人に過ぎないものが、主人たる淫怪人から先ほどのように言われれば
一も二も無く、従うと言うより、その身を投げ出すに違いない

だが、百合子は、「教師」であることを歪曲された倫理に基づいて、とはいえ選択しようとした

この倒錯した意識すら、イーズが好むもの

いや、イーズがここに居る理由だった

「あっはは、そうですね~
じゃ、淵根先生、今夜、先生のお部屋に伺ってよろしいですか~」
「う、ぁ、は、はぃ、お、お待ち申し上げ、あ、くぅ」

かくり、百合子のこうべが力をなくす

「うふふん、熱心な淵根先生、可愛いわ~」

百合子を優しく自習室の寝台に寝かせると、イーズはまたふんふんふんと、ハミングしながら構内を歩いてゆくのだった


「じゃ、また明日~」
「ええ、また明日」
「今日はありがと~」

勇たち三人も
他の生徒たちも、それぞれに校舎をあとにしようとするとき
I バッグショーツの脇紐についた小さな金属棒を手に取ると
ぷちりとそこから取り外し、保健室横にずらりと並んだ生徒名のついた小さな穴に
一人、また一人と収めていく

この小さな金属棒の中に入っているもの
少女たちから密かに汲み上げられたそれは
精製され、淫怪人の間で欠かすことの出来ない希少な嗜好品となる

軋みにたゆとう少女たちから集められるもの

決して、奈落の果ての快楽の底をさまよう淫隷人などからは集められないもの

それを欲しているくせに、淫怪人はそれを一度で摘み取ってしまうことしか出来ない

だから、それを定期的に酌みあげるすべを持つイーズがこんな迂遠なことをしていても大目に見られるし
機材、資材はおろか、場合によっては人員の動員まで掛けられるというわけだ
それに、その能力のせいで、頼みごとが持ち込まれることも多い

とはいえ、イーズも今、迷いの中に居る

「ど~しよっかな~、ここで育てた子達を外でうろうろさせて、社会の混乱をかぁ~
いつもの味がする~~、そのノイズも美味しいんだけど、そろそろ違うお料理にしないとね~
 
その点、百合子は拾い物だったかな~、こないだ、頼まれた、なんとかいう研究所の連中なんか
 ちょ~~っと、ノイズを上げただけで、いつもの味になっちゃったし~」

お仕事なっちゃうと、美味しくないんだよね~~
などとつぶやきながらいつか、滲む姿はほの暗くなった校舎の中に消えていく

そして学園から立ち去ろうとする少女たちの身体には

今朝方、少女たちそれぞれが奏でる固有のノイズに乗せて
分子どころか原子レベルでくるくると、淫空間の中に解かれていた
本来着用していた衣服が、
また、彼女たちそれぞれのノイズを目標に
きりり、くりりと物質の網を、分子の網を、繊維の網を再構成して、それぞれの身体に纏われてゆく

少女たちすべてが淫空間から立ち去って

学園は、しばし、眠りの闇に身を委ねる

明日、少女たちの奏でるノイズで、再び満たされるために…


それから平穏な日々が、しばし続き
気さくな、イーズは本人が淫怪人として振舞おうとしないこともあるのだが
百合子先生と並ぶ、人気の教師となり

昼休みなどは、イーズを囲んで芝生の上で食事を採る少女たちの姿が見られ
勇たち三人も、その輪に混じることもあった
しかしそんな日常から切り離されてしまう不幸なものも居る

伸びやかな学園の生活
友人たち、厳しいけれども、生徒たちをやさしく見守る先生たち

穏やかに続くはずの日は

突然に破られる

赤羽 勇にとっては、今夜がその日になるようだった



師範代を勤める祖父の道場から一人、かつて両親と暮らしていたマンションに帰る勇

その途中、そこだけ時代から忘れ去られたような一角を通ることになる

戦前から、いや明治大正の頃からそのままだと噂される、高い塀に囲まれた廃墟

住民たちが治安のために何度も撤去を陳情しているが、いつもうやむやになるという、いわくつきの場所

学園内でも、学外ででも、人一倍の正義感と、勇気は持ち合わせている勇だが
こんな場所は出来れば避けて通りたい

その程度には、育ちと躾けの良い娘でもあるのだ

けれど、そこから突然鳴動と、火の手が上がったとあっては、事故に巻き込まれたくないという心理とともに
好奇心もむっくりと起き上がってしまう

ましてや

「きゃぁぁ~~~~~~」

くぐもるような、それでいて、心のどこかがもげ散ったとでも言うような悲鳴が聞こえたとあってはなおのこと

先ほどの鳴動で崩れたものらしい、塀の割れ目から勇が中を覗きこめば

月明かりの下、どうやら昔は西洋風の庭園が広がっていたものらしい広々とした芝生の一角に
口を押さえて佇立する少女と、異形の女たち

「あ、ああ…」
「見つけたわよ、恵ちゃん。さ、一緒に行きましょ、*ー**タ*様の下へ」

異形の女が発した言葉の後半をもしもこのとき勇が聞いていれば
学外に在っても、何かしらの制御が働いた「かも」、かもしれない

もっとも、イーズが施した学園内と、学園外との「ずれ」は完璧に働いているから
それでも結果は同じことだったかもしれないが

いずれにせよ、勇はこのとき穏やかな日常に留まれる「かも」知れない最後のチャンスを失った

じんじんじんと耳の中で血が唸り
それでもぐぃと腹に力を入れた勇にはもう、話の内容はまったく聞こえていなかった
ただただ、目の前の少女を救う

その、チャンスを計ることしかもう、剣士としての戦闘モードに没入しきった勇の中にはなかった

「…行きましょう。貴女ほどの優秀な人間だったら、すぐに…にしてもらえるわ。
 それって、すっごく光栄なことなのよ…」
「い、いやあっ!」

伸ばされる指、振り払おうとする少女

だが、恐怖のあまりか、少女は空振りをしてしまうと、ぺたり、しりもちをつく格好になってしまう

しかし、それが、異形の女の動きも空振りをさせ

一瞬の空白が二人の間に訪れる

その時、恵に伸ばされた手を竹刀の一閃が弾き飛ばした。

「ちっ!誰っ!?」

「誰だって良いでしょ!私が相手になってやるわ!」

そして勇の不幸は始まった

「レッツライブ!超獣天装っ!!」
「エンジェル・ファルコンっ!!」

今の時代には合いにくい真赤なスーツを着てしまったのも
どう考えても、少々恥ずかしい名乗りを上げてしまったのも

いずれも、不幸のなせる業

あるいは、ひょっとすると、ダーククロスに対抗するため
ダーククロスのテクノロジーに近づきすぎたアカデミアは

ライブエンジェルたちを理想的な戦士に仕上げるために
手っ取り早くライブエンジェルとしての性格付けを、脳内に転送する方法を、ダーククロスに似た方法で採用していて
それが、「ライブ『ヴァイザー』」を身に着けてしまった勇には、あっさりと受け入れられてしまったのかもしれない

「もらった!ファルコンスラーーーッシュ!!」
「きゃああああああああっっっ!!!だ、ダークサタン様ぁぁっっ!!」

そうでもなくては、さすがに『お名前』を叫びつつ爆散した異形の女の叫びを、勇がたとえ学園外の少女になっているとはいえ
まったく気にしなかったことの説明もつかなくなる

それほど「お名前」だけには強烈なイメージが伴っていたのだ

いずれにせよ、滾るセイギの血のままに行動する勇には、そのあとの。恵との短いやり取りで出て来た
ダーククロスという名には、反感以外の反応を示すことは無く
ただ、恵とともに恵の父を助け出そうと
今は、謎の研究組織アカデミアなるものの秘密研究所と知れた廃墟の奥、いや
奥へ進むにしたがって勇の見たこともないような、機材が並ぶ迷路のような場所を、恵の先導で進んでいく

そして

やっとの思いでアカデミア中央に位置する博士のラボにたどり着いた二人だったが、そこには無惨な光景が広がっていた
「お、お父さん……!」
二人の眼前には、淫魔竜軍の淫怪人とその足元に倒れ伏した蒼海博士の姿
「貴様っ!蒼海博士に何をした!」
「あら…?今までどこに隠れていたのかしら、蒼海 恵さん。それに貴女は…」

淫怪人・リューミの目に疑問の灯がともる

とある幹部級淫怪人の手を借りて淫隷人化させたアカデミアの元女性職員たちに捜索させていた蒼海 恵
それはいい、それはいいが、その横にいるものがかすかに発しているのは…
こんな娘は淫隷人にしたつもりは無かったが
ひょっとして、閉鎖空間であるアカデミアの淫空間化を依頼した、あの淫怪人が、気まぐれに、アルバイトか何かの娘でも
淫隷人化しかけて放って置いたのだろうか

それが
今、ここに蒼海 恵を捕らえてきたのだろうか?

『良くやったわね』と、ねぎらってやろうかと言葉を継ごうとするリューミを

「黙れっ!博士に何をしたと聞いているんだ!」

勇が激しくにらみつけながら詰問する

この生意気な物言いに、リューミはカチンと来てしまった

淫隷人にすらなり仰せていない小娘に、黙れなどと言われては
淫怪人の誇りが許さない

「ナニもしちゃいないわ
 こんなしなびたおじさんは淫隷人にしたって仕方がないから、せめて最後に気持ち良い思いをさせてあげようとしたんだけど…」

無礼な淫隷人もどきを懲罰するためにもせいぜい小馬鹿にした態度をとってやる

「人間の分際で、淫怪人に抱かれる幸せを拒否するなんてね。ほんと、馬鹿なおじさん――」
「……!!超獣天装!!」
「貴様は絶対に許さない!」

その後、リューミが発した『お名前』にすら
勇が気づかなかったのは、やはり、イーズの処理の完璧さなのか
それとも、、「ライブ『ヴァイザー』」のせいなのか…


「ぐあっ……!!そ、そんな……この、私が……だ、ダークサタン様ぁぁぁぁぁっ!!!」

「見ていて、お父さん。私、戦うよ。
 お父さんのカタキを……ううん、ダーククロスに何かを奪われた全ての人のカタキを討つために…」
「恵、もちろん私も戦うからね。
 ダーククロスから地球を守るために、一緒にやろうよ!」
「はい、勇さん…!」

かくして、二人は崩壊するアカデミアから脱出を果たす
戦いは、ここから始まるのだ――

そう、勇の不幸も同時に…


そして、取り合えず、恵を匿って、ようやく長い夜の終わりを迎える勇には
もう、泥のように着替えもせずに、ベッドに倒れこむことしか出来なかった

もちろん

翌日の淫語Ⅱの予習も出来ずに…


日が昇り

かろうじて、寝坊を免れた勇

校門をくぐり

今日も彼女の身体を包んで守るIバックショーツの収まりを確認しながら
「ふふ~ん、香奈たちになんて話そうかな、私、正義の味方になっちゃったんだよ
っていったら、どうするかな」

香奈たちに話すため昨夜の記憶をもう一度再生する勇

淫隷学園異聞13

「まだ、感触が残ってる、あいつ、そうそう
なんか、言ってたよね
『人間の分際で、淫怪人に抱かれる幸せを拒否するなんてね。ほんと、馬鹿なおじさん――』
ほんとだよ、淫怪人様に抱いていただく幸せを拒否するなんて、ほんっと馬鹿なおじ……」

淫隷学園異聞14

淫隷学園異聞15

淫隷学園異聞16

淫隷学園異聞17

淫隷学園異聞18

ぐきりと、何かが勇の意識を突き刺した

淫隷学園異聞19

「あーーーーーーーーーーーっ!」

口の前に広げたその手も、もう、勇の叫びを止めてはくれない

怪訝な顔で足を止める生徒たち

くたり、その場にくず折れる勇


そのあと

泣き崩れる勇は、香奈たちと、担任の百合子が駆けつけるまで

その場にうずくまることしか出来なかった



「も、もう、ここに」
「わたし、いちゃ、だめ」
「い、ん、怪人様」
「もう、学校に、こられ…」
「うらぎりもの」
「わたし」
「だめ、駄目、だめ…」

淫隷学園異聞20

意味の通らない言葉を、涙と嗚咽との隙間から漏らし続ける勇

勇が怪我などをしていないことをざっと確認すると、百合子は勇の額に手を当てて

「どうやら熱は無いですね、うん、香奈さん、真理さん
 勇さんを保健室につれていって上げて
 私は、教室に行って、とりあえず皆さんには自習にしてもらってくるわ」
「はぃ」
「はい、淵根先生」

真理が勇に肩を貸す
最初、立ち上がることすら、勇は拒否しかけていたが
そこは、二人のこと、勇を上手にあやしつけると
保健室へと連れて行く

教室にほとんど駆け戻った百合子はというと
勇の体調が悪いからと余計な説明は省き、自習を手早く申し付けて

保健室に急ごうとしたが
ふと、ある予感につつかれて、イーズが学園内の執務にあてている理事長室に赴いた

「イーズさ…、イーズ先生、ちょっとお耳に入れたくて…」
扉を開いた百合子は、そのままそこで凍りつきかける

本来が淫怪人であるとはいえ
学園内に居るときは、イーズは教師であろうとする

そう振舞うことに、なにかおかしみを覚えているのかと
想像することもあるが
イーズに仕える淫隷人の身である百合子にとっては、それはどちらでも、構わない

構わないけれど
ここで、教師として過ごすことも、百合子にとっては
イーズから与えられた使命だし
本来、彼女が持っている性格ともまったく衝突を感じないので
百合子は生き生きと、ここで生徒たちと接していられる

だから、ここで見るイーズは
たとい、何事かに興じているそぶりを見せることが多いとはいえ
「イーズ先生」であるはず

なのに
理事長室の中に居たイーズは

淫隷学園異聞21

二人きりの折

百合子を徹底的に責めあげたあと
たまさか見せることのある、「酔い」の回った表情

淫隷人の一人でしかない百合子にとっては
なかなか、見せてもらえない、イーズの満足の徴ではあるが

しかし、今、百合子の見るイーズの様子はただ事でない、「酔い」
人間ならば「酩酊」に近い様子としか思えない

「ふぁら~、ゆふぃこぉ~、ろうしらろ~~
 そんら、かぉしてぇ~
 あはぁ、かわぃ~~、たべ、ちゃうろ~」
食べられるのが幸せに違いない

違いないが、何かが、百合子を走らせた

卓上に活けられた花瓶の花を引き抜くと
ざぶり
イーズにぶちかける

「ひゃぅっ、ちょ、ちょっと、百合子」
ぶんぶんぶんと頭を振って酩酊から一挙に復帰するイーズも流石ではある

「申し訳、ありません、お叱りと、処罰は後ほど
 けれども、赤羽さんが」
「あら、勇さんが?」
「はい、ただ事でない様子で、校門前で泣きじゃくっていました、話の内容も、支離滅裂ですけれど、
『淫怪人さま』をどうこうと言っていますし、ここに居られないとかどうとかと」

「それって、いつ?」
「先ほどです、始業の予鈴がなる5分くらい前でしたでしょうか」
「はっは~ん、それかぁ」
「それ?」
「そうよ~~、おもいっきり、おっきな『ノイズ』がね、飛び込んできて、あんまり美味しかったものだからさ~
 つい、食べ過ぎちゃって…」

ふんふんとイーズは頷くと
百合子が差し出そうとするタオルも受け取らないまま
目顔で百合子を促すと
保健室に向かった

すんすんすん

保健室の扉を開ければ、嗚咽が聞こえてくるが
残念ながらそれは、イーズが通常は好んでいる喜悦のそれとは違っている

保険医と、手短に傷害や病害ではなさそうなことを確認したイーズは
丸椅子に腰掛けて真理に抱かれたまま、香奈に髪を背中をあやしてもらっている勇に一瞥を走らせたあと

保険医を職員室で待つように話して下がらせる

淫隷学園異聞22

「勇さん、ど~かして~?」

一瞬勇の顔が上がり

またくしゃりと表情が溶け崩れると

今度こそ
号泣が始まってしまう

言葉にこそ出さないが真理と香奈から
折角落ち着きかけたのにといわんばかりの視線がさくさくイーズを射抜いてくるが

ここでひるむようなイーズではない

ほいっと
勇をたち上がらせると

豊かな胸にほわんと勇のこうべを包み込む

淫隷学園異聞23

真理のそれとは違う感触に
はっと顔を上げる勇

「可愛い顔が台無しですよ~
 でも、その顔も可愛いかな~~
 ん~~、キスしちゃおっか~~~」
「…はわっ」

淫隷学園異聞24

途端、殺気というよりレーザービームあるいはもっと凶悪な熱線が二本イーズを貫くが
イーズはまったく気にしない

「ん、ふっふ
 ほい、泣いてちゃわかんないわ~
 真理さんも、香奈さんも、ほら、淵根先生だって~
 ね、勇さんのことを、大事だって思っているのよ~」
またそれを聞いて、泣き崩れかかる勇だが

「ユウ?」
「勇さん、教えて?」
「赤羽さん?」

イーズの登場を突破口にと親友や百合子先生が通わせてきた気配には、流石に力があったらしく

ぽつり、ぽろりと
昨夜のことを話し出す

声を呑む、香奈と真理、そして百合子

それでも、勇を抱いたままで居る、イーズ

「で、ですから、ですから、 わたし、もうここ、ここに居られない、せ、先生、イーズ先生、私、私を、処刑してください」

泣きじゃくりながらも、激情の故か勇はきっぱり口にする
息を呑む百合子
顔を見合わせる、香奈と真理

勇の告白と激情とに触発されたか、イーズの肩が、ふるふるふると震えだす

背後から、イーズを見つめていた百合子が
イーズの背中から立ち上る大きな気配を察してか

淫隷学園異聞25

イーズの足元に跪拝すると
「イーズ先生、い、いいえ、イーズ様っ、赤羽さんの過ちは、私の指導不足のせいです
 処刑されるのは私、赤羽さんでは」
と取りすがる
「先生、お願いします、ユウを」
「先生、お慈悲を、どのようなこともいたします」
真理、香奈もその場に跪く

震え続けるイーズの肩

淫隷学園異聞26

観念したのか、勇も
「私です、先生や香奈や真理には関係ありません、イーズ先生」
と、決意の表情できりりイーズを直視しようとしたのだが
覗きこんだイーズの表情にそのまま固まってしまう

イーズの慈悲に、いやそれがあるのならだが、何とかすがろうと、おずおずとイーズの表情を伺おうとする百合子

くきり、奥歯をかみ締めてイーズの言葉を待つ真理
胸の奥、ぽつり、灯した決意の小さな暗い炎だけじっと見つめる香奈

淫隷学園異聞27

ひゅう

場の緊張を知ろうともしないそよ風がふぁさりとカーテンを揺らす

そして……



「かっわぃ~~~」

淫隷学園異聞28

全てをぶち壊す歓声と共に勇ごと保健室のベッドに身投げするイーズ

淫隷学園異聞29

そのまま勇に覆いかぶさりかけるイーズを真理と香奈とが実力で引っぺがしたのは
たっぷり1分後だったが

そのあとも
引っぺがしたら、引っぺがしたで
しばらくの間、イーズは笑い転げていて
今度は、そちらのほうが、役に立ちそうになかった

「イーズ様」
「イーズせんせー」
「イーズせんせぃ?」

「あは、あっはは、あはっはっはは、はぁはぁ苦しい
 も~、勇さんたら~
 皆さんもですよ~~、真剣な顔しちゃって~~」

「で、でもでもでも」
「ふふん、勇さん、何かいけないことをしましたか~?」

「淫怪人様をっ、それに、淫隷人の人たちも何人も」
「い~のよ~~」
「で、でも、イーズ先生」

「勇さんが、ここで、同じことをしたなら
 それは、いけないことですね~~」
「は、ぃ」

「でも、勇さんはそんなことしますか~~?」
ぶんぶんぶんっとかぶりをふる勇

「勇さんが、お外で、ここの中のことを思い出さないのはね、ちゃんと意味があるの~
 そういう風にしてあげてるの~
 だ、か、ら
 勇さんは、気にしなくていいの~~」

「い、いいんですか?」
「もちろんよ~
 外でも、ここと同じで居て欲しい、『学園の貴女』のままで居て欲しい
 わたしや、『あの方』がそう思ったら、あなたたちがどう思おうと
 そうしてあげるし~」

「でも、でもっ」
もうひとつ勇にはまだ、拭いきれないものがある

「淫隷人の人たちは、人間ですよね、わたし、人間を、この手で…」
ひどく重いものがそこにある

「違うわよ?」
あっさり言い切るイーズ
「へ?」

「勇さんたち学生さんは、どこまで行ってもただの人間、う~~ん、そうねぇ、少々違うことにしちゃうかもぉ、あは
 だけど、少なくとも、学園に居る間、完全に人間で無くすることはしてあげないの~
 残念ね?うっふふ」
「?」
話の行方を掴みかねる勇

「完全に淫隷人にしてあげたら、人間なんて超えちゃって、くすっ、わたしたちに近くなれるのぉ
 それに、一度なったら、もう二度と人間になんて戻れはしないんだからぁ
 いーでしょ~
 でも、あなたたちはそこまで成長してないわねぇ
 
 百合子先生はね
 わたしが選んだのよ~
 大人の百合子を
 立派な教師としての百合子を
 わたしだけのために心も、身体も、み~んな捧げて欲しかったからぁ」

突然の成り行きに頬を肌を羞恥に染め上げる百合子

「は、はい、憧れます、百合子先生が羨ましいです」
こくこくこくと頷く勇、香奈も真理も百合子の身の上に憧れの視線を送る

「羨ましいかな~?」
「はぃっ、もう外であんなことになりたくないです、すぐ、今すぐに淫隷人にして下さいっ、奴隷になってお仕えしたいです
イーズ先生の淫隷人になりたいけど、それが無理なら
ダーククロスにお仕えする、どなたのものでもかまいません、淫隷人が無理なら、奴隷だって」
同様に頷く、香奈と真理

ぴん

勇の額が軽くイーズの指ではじかれる

「あぅ」

「も~かわいいな、キスしちゃおうかな…こほん、だめよぅ、勇さん、背伸びはだ~め」

淫隷学園異聞30

さくさくざくり、突き刺さる熱線が、あるいは視線の氷の刃が再びイーズに突き刺さっているが
余裕綽々イーズは続ける

「脱線しかけちゃったけど、残念ねぇ、人間の分際で、淫怪人はおろか、淫隷人だって
 ふふん、同類だと思っちゃや~よ
 だから、貴女は、人殺しなんてしてないわよぅ」
「でも、それでも、憧れの存在なのに…」

「あらら~そんな程度の半端ものが?」
「へ?」
「ただの人間だった勇さんに邪魔された淫隷人とも言えないような愚か者が憧れ?
それとも
なんだっけ、『ライブスーツ』だっけか?
そんなものの力を借りてやっとこ刃向かえる人間風情に倒された
下っ端淫怪人が憧れですかぁ?
ん、赤羽 勇さん~~?」

ぐぎり

誰もが忘れていそうだが

イーズが覆うこの場の力の大きさが

この場を覆いつくせるイーズの力そのものが

一瞬だけ、勇たちの前を、そろり、通り過ぎて消える

「馬鹿に…しないでね?」

淫隷学園異聞31

にこにこにこと笑うイーズ

「ひっ、ご、ごごご、御免なさいっ」

うんうんうんと頷くとイーズは勇の髪をくしゃくしゃといじる

「素直でよろしぃ~
 ということで、外でも、もちろんこの中でも
 勇さんは気に病むことはないの~~~
 
 むしろ

 良くやったって、『あの方』ならば、仰るかも~」
「えぇぇぇ」

「さっきも言った見たく、その程度の、淫隷人も、もちろん、淫怪人も、ダーククロスには無用よ~
 いらないわぁ~」
むふふふふんとウインクをよこすイーズ
「うちは、ね?
くすっ
非情な組織なの~~」

説得力に欠ける気がするのは気のせいではあるまい

「じゃ、じゃぁじゃぁ
 先生、私、ここに居ていいのっ?」
「もっちろ~ん」

くしゃくしゃくしゃが大きくなった気がする

「ここに居る、『学園の貴女』が、学園の中で、友人や、百合子先生や、わたしにね~
 『あの方』のご命令とかなら別として
 理由も無しに、刃を向けるなら、勇さん、貴女は、立派な人殺しで同類殺し
 私は、要らないけれど、そういうのが好きだって淫怪人も居なくはないから
 まぁ、それもいいかもだけどぉ
 こほん
 そんな「人」は、ここにはだぁれも居ないわよ
 先生はそう信じてる、何かあったとしても、まずは、理由のほうを聞きますよ~
 もちろん、うふん、わたしの選んだ百合子もね~~」
「こほん」
「あらら~、もう可愛いな百合子、こほん百合子せんせ…
 はいはい、淵根先生もね~
 じゃ、わかりましたか~
 外の勇さんは勇さんで
 ここでの勇さんは勇さんで信じることをすればいいの~」
「…はいっ」
うんうんうんと頷くイーズ
だが、それならそれで勇はもうひとつしなければならないことをしようとする

「じゃ、じゃぁ、ご報告します、恵ちゃんを匿った場所は…もごっ」

イーズの指が勇の口をふさぐ

「言わなくていーの」

「じゃ、じゃ、えと、恵ちゃんが教えてくれたエンジェルブレスのエネルギーの秘密…もがっ」

「もう、あんまり言ってると、キスで止めたくなっちゃうな~」

「せんせぃ?」
「せんせ~~!!」

「あっはははははは、お~こわい」

「で、も、せめて…」
「気にしないでいいの、そんな裏切りもののようなことをさせたら
 勇さんが美味しく…こほん、素直な子でなくなりますね
 学生らしく、これが私が勇さんに望むこと
 ええ、『あの方』もきっとそれをお望みですよ?」
「そ、そうでしょうか」
「保証するわ、どうせたいした技術がないのは、先生、知ってるし、それとも先生が信じられませんか~~」

じっと勇の顔を覗き込むイーズ

そこに何を感じたのか
それとも、それは勇の性格か

ふるふるるんと勇のかぶりが振られる

「うん、わかればよろしい」

「むふふふふふふふふっ、さぁっ百合子~~あ、いけない百合子先生~~」
「はっはい」

淫隷学園異聞31.5(追加)

イーズの眼鏡がきらりと光った気がするが
これはイーズの好きなお遊び、演出というやつかもしれない

「忙しくなるわよ~~~」
「は?」
「くふっふ、い~の、ともかくっ
勇さん、真理さん、香奈さん
勇さんのことは、まったく問題ありませんよ~
皆さんが心配するといけないから、このあと、『ご報告』はします
筋はきちんと通しておきますよ~~
でも、オッケ、信じなさい~」

百合子の右手をイーズはぐいとつかむと
「さっ、淵根先生、参りましょ、あ、皆さんは、午前中、勇さんを落ち着かせてあげてね~
 ん?自習室使う~?」
「なっ」
「先生ー」
「…いいんですか?」

「あっはっは、ま、贔屓はよくないしね、ここにいらっしゃい、では先生たちは色々あるから、これで、ね
でも何かあったら、理事長室か、教員室にいらっしゃいね~」
言い置くと百合子を伴って保健室をあとにする

淫隷学園異聞32

かつこつかつり、かつこつかつり
二人のヒールが廊下を鳴らす
「百合子」
「はぃ、イーズ、様」
「うんうん、いいこと、わたしはここを守るわよ」
「はいっ」
「このまま、生徒たちに波紋も広げさせません」
「はいっ」
「百合子が淫語を進めてくれていて良かったわ、全員Ⅱまで進んでいるし
 もう少しだけ、皆さんを、外と適合出来やすいように、調整してあげるから」
「はいっ」
「気持の切り替えも、きっちりできるように、しましょう」
「はいっ」
「それが終わったら、可愛い百合子を…」
「こほん」
「硬いなぁ、もう~~」
などといいながら、どうやら、まだあるその先を、百合子に説明しているようだった



午前中を、保健室で過ごす三人

なんと言うことのない会話
TVの内容
学友の噂
イーズにはまだ早いと言われはしたが
やはり憧れてしまう、百合子先生の身の上

それやこれやを三人で話していれば
そのうち、くきゅると現金な勇のお腹が不平の声を鳴らすと

にんまり顔を見合わせた三人は、真理がひそかに確保してきたお弁当を
早めに口にしたりする

昼が過ぎ、教室に戻れば

心配したよと声をかける顔、顔、顔

嬉しいな そう思いながら、淫語Ⅱが今日は、イーズの担当でなく

「イーズ先生は、急な御用でお出かけです、今日は私が担当しますね?」

百合子先生がそう言うのを聞くとイーズ先生を信じているもののやはり
先生に迷惑をかけてしまったのでは?

そんな想いもして

いつもほど、淫語の授業に身が入らない自分を発見したりする

淵根先生は、それを察しているようで

授業の終わり、にこり、微笑と軽い頷きををかすかによこしてくれたりする

不安でないのか?
そう、聞きたい気もするが、先ほどの微笑を見れば、淵根先生、いや、百合子先生が
イーズ先生に、どれだけ信頼を寄せているのか分かる気がして
やはり、憧れが胸のどこかを熱くする

そうこうしているうち、放課後になり
空が茜に燃え出して

でも、まだイーズ先生が戻った様子が無いのを知ると
勇は立ち去りがたくしていたのだが、香奈と真理とに促されて

紅く染まった校舎の壁を振り返り、振り返りして学園を出ようとしかける

そして、最期にもう一度

校門を出る前に振り返ったとき

校庭のまん真中にすっくと立ったのは

夕日の中でも銀髪を涼しげにひらめかせるあの人に違いない

勇たちが、声をかけようとした瞬間

その人は、にっと笑うとVサインを三人に示して見せて

ばいばいばいと手を振った

淫隷学園異聞33

見合わせた顔と顔と顔

たとえ、校門を出れば明日までそのことを思い出すことは出来ないとしても

きっと心のどこかが暖かいだろうな

勇は笑って外にでた


翌日

珍しく、全校集会があり、イーズ先生から

数日前、本校の匿名の生徒が、見苦しい半端ものを始末するという賞賛される行いをしてのけたこと
皆も知る『あの方』も、それを賞賛しておられること、学園の生徒が勉学に励んでいることを
喜んで居られることなどが告げられた
生徒たちは、誰がその生徒なのだろうなどと、さわさわ小声をあげかけたが
イーズはそれを軽く制すると

皆が、それをせよというのが『あの方』のご本意ではなく
全てをご存知である『あの方』の御心に添った本学の課業を学び
外では外で、中では中でのびのびと、学生生活を行うことこそご本意なのだと生徒たちを諭したりした

そんなわけで、真理や香奈、なんとなく事情を察してしまったクラスメイト
それにもちろん、淵根先生が知る中で
勇はライブエンジェルと、淫隷候補生たる学園の生徒という二足のわらじを
なし崩しで履いてしまい、周囲もそれを受け入れるという、奇妙なことになってしまう

その後も、何人かの淫怪人様と外で戦ったのだが、決着がつくことも、付かない事もあったりした

これで本当にいいんですかと、イーズに聞けば
大爆笑してらしたわよ、などと聞かされるとやはり大きな方なのだ
いやそもそも人でなどありはしないのだが、その御心の大きさに勇はますます憧れを強める

けれど

ひとつだけ、心配事が残る
ライブエンジェルの、いやエンジェルブレスの機能には
淫怪人様が発せられる「気」を感知する力があるようなのだ

イーズ先生にそのことを告げようか

そうしたいと思うのだが

これも余計なことなのかと、思ってしまうと
いつもぽっくり思考の穴ぼこに嵌ってしまい

これだけは勇のどこかを居心地悪いことにし続ける

けれど

いくら、外の自分が『御心』に気づかないほど愚かでも

学園に「さえ」いれば、自分がイーズ先生や、百合子先生に、ライブセイバーを向けることなどありえない

勇は無理にもそう思うことにした

そして…

ある日の深夜、誰にも知られることなく、この学園は魔淫空間に包まれる。
その翌朝、登校してきた生徒たちの様子は平穏そのものであった。
だが――
「おはよ、香奈」
「おはよう、勇。今日は遅刻しなかったわね、えらいえらい」
「あはは……なんたって、今日から新しい先生が来るんでしょ?
 初日から目ぇつけられたくないもんね」
「良い心がけね。さ、行きましょ」

いーん

『あ、れ…?』

いーん

『あれ、なんだろ…?』

いーん

「あ、れ?」
「勇どうかした?」
ほろろん、と香奈の顔がほころびる

いーん

「あ、いや」

いーん

『なんだっけ、これ、って』

いぃーん

「なぁに?どこかおかしいかしら?」

いぃーん

「あ、いや、あ、あの…」

いぃーん

「どうしたの勇、なぁに?」

いぃーん

『こ、これって、どこかで?』

いぃーんいぃーんいぃーんいぃーんいぃーんいぃーんいぃーん

「綺麗、あ、うん、そう、そうだよ、綺麗」
「??なにが?勇、何見てるのかなぁ?」
香奈は両手を腰に当て、すぃっと上体を勇に向かって突き出す

いぃーんいぃーんいぃーんいぃーんいぃーんいぃーんいぃーん

「はわっ、あ、はわわ、いっいっ、いや、いやあの、あのその」
「もう~、さっいきましょ」

「おはようございます、皆さん。
 ご存知の通り、今日から貴女方の指導を受け持つことになりました、淫機人・イーズです。」

淫隷学園異聞34

(え、なんで、先生こんなこというんだろ)

 「ダークサタン様の目指す世界構築のために、一緒に頑張っていきましょう」

(えぇぇぇぇ、『お名前』はみだりに…)

「「「よろしくお願いします、イーズ様」」」

(それ、に、わたしも、みんなも、『イーズ様』って)

(…あれ、なんだろ、なんだか違う)

(『イーズ様』はもちろん『イーズ様』だけど 学園では『イーズ様』は『イーズ先生』で)

いぃーんいぃーんいぃーんいぃーんいぃーんいぃーんいぃーん

「はい、よろしくお願いします。
 さて、では授業を始めるにあたって、皆さんのダーククロス構成員としての習熟度を知っておかなければい けませんね。」
(え、そんな今更)
(毎週淫語のⅡだって、受けて…)

淫隷学園異聞35

「では……赤羽 勇さん。代表して、ダーククロス構成員の心得を大きな声で宣言してみてください」

(そっ、それは別に構わないけど、なんだか)

「かしこまりました、イーズ様」

「イーッ!ハイル・ダーククロス!ハイル・ダークサタン!
 私たちダーククロス構成員は、未来の淫怪人候補として日夜勉強に励み、
 ダークサタン様の理想を実現するため、性なる世界を造るために身も心も捧げる事を誓います!!」

淫隷学園異聞36

(わたし、何でこんなこと言ってるの?)
(当たり前のことなのに)
(それに『お名前』まで、口にしちゃった)

「いいわよ。さあ、繰り返して……」
「イーッ!ハイル・ダーククロス!ハイル・ダークサタン!私たちダーククロス構成員は……」

(違う違うよぉ、こんなの変だよ)

「いいわよ。さあ、もっと繰り返して……」
「イーッ!ハイル・ダーククロス!ハイル・ダークサタン!私たちダーククロス構成員は……」

いぃーんいぃーんいぃーんいぃーんいぃーんいぃーんイサいミぃーんいぃーんいぃーん

(あ、頭いたい、だれ、誰、誰か、なんか言ってるの?)

いぃーんイサいミぃーんボクだヨいぃーんけに行くかラぃーんいぃーんいぃーん

いぃーんいぃーんいぃーんいぃーんいぃーんいぃーんいぃーん

突然、耳鳴りのような不快な音の中からジョウの言葉が意味を成すと

(イサミー!ボクだヨ、聞こえルー?すぐ助けに行くかラ、もうちょっト待っててネー!)

今まで、耳の奥で唸っていたのが、自分への呼びかけだったと勇は気がつく

(勇さん、聞こえますか!この魔淫空間を破るには、中からの攻撃が必要なんです!
 もし近くに淫怪人がいるなら……)

(ジョウ……恵……?)

(淫怪人?せ、先生、イーズ先生なら、ここにいらっしゃるけど…)

「どうしました?途中でやめてはいけませんよ、勇さん」

淫隷学園異聞37

『イーズ』は勇を抱きすくめ、その手で、指で、勇の奥からそろぞろ、ぞろりと
昏い何かを汲み引き上げる

「い、イーズ先生?」

「先生?赤羽さん、私は何ですか?」動きをやめずに囁くイーズ

「あ、『イーズ』、さ、ま?」

(で、でも、それは、そうだけど)

「どうしました、淫怪人の、淫機人の手が触れるのが嫌ですか?」

(淫怪人、淫機人、淫き、じん?)

さらに、無遠慮な手が勇の密やかな場所に伸びようとする

(イサミー?)
(勇さん?)

(あ、ち、違う、先生じゃ…)

淫隷学園異聞38

「先生じゃない、お前なんか、イーズ『先生』じゃないっ!!」


そして、そして………



さわさわと、頬に吹く風が心地よい

何故か久しぶりに爽やかに目覚めた気がする

淫隷学園異聞39

「おはよー、真理~」
「おはよ、ユウ、ん?あれ、わたし寝坊しちゃったかな?」
「おはよぅ、真理、あら?勇?
 どうしたの、昨日眠れなくって、そのまま来ちゃったの?」
「違うよ~、なんだか、昨日、ぐっすり眠れたの、うん、予習も出来たし」
「えっ、ユウ、何か悪いもの食べた?」
「どうかしたの、勇、ん~熱はないわね」
香奈は勇の額にあてた手を、自分の額にあてて確認する

「やだな、もぅ、今日は、気分がいいんだから、それにほら風だって」

さらさら、と風が香奈のやわらな髪を揺らせ
さわわ、そより、真理のスカートを翻らせる

「本当ね、ところで、勇、予習って、何の予習をしてきたの?」

淫隷学園異聞40

「もちろん、淫語だよ~、昨日は、寝る前にちゃんと出来たもの」
「あ、英語ね?」
「違うよ、香奈、淫語」
「インゴー?」
真理も怪訝な顔をするが
「あぁ、わかった、隠語、スラングね?でも、興味を持つのはいいけれど
 あまり、役には立たないかも、それとも、英語の小説でも、読みたくなったの?」
そう答えたのはさすが博識な香奈といったところだろうか

「も~、なにいってんのさ、『イーズ先生』の淫語Ⅱでしょ?」
「『イーズ先生』?誰それ?」
「新しくこられる方かしら?真理さん聞いている?」
「ううん、でも、どうしてユウそんなこと知ってるの}
「なに言ってんの、『イーズ先生』は理事筆頭で、それで、淫語を担当してて、それで、それで、それで…」

淫隷学園異聞41

「それで?」
「それで?」

「……それ、で…、わ、たし、き、昨日、先生を…」
「先生を?」
「先生を??」

「……た、倒しちゃった…」

淫隷学園異聞42

ぐるん

たった今世界が暗転した気がする

すぽり

足の感覚が消えうせた気がする

『*******』
『************』

真理と香奈とが何か話しかけてきているが

何も聞こえてこない

たった今、いま、いまわかった

イーズ先生はいない

気さくで、ころころ笑っていて、ちょっぴりエッチで、ちょっとだけ怖くって

そして、自分を、『あの方』に連なる道に導いてくださっていたイーズ先生はもういない

昨日自分が倒した

爆散する炎になって、最期は、崩れちった身体が、灰色のノイズになって消えうせた

そう、だから、もう、淫語の授業もない、導く優しい手は消えうせた

これ以上、自分を洗脳してくださる方はいない

自分にできることは…

淫隷人もどきの、この心のままで

仲間になる筈だった淫隷人や、淫怪人様達を倒すことしか、他に残らなくなった

…同類殺し

もう、もう決して、世界は自分に優しくしてくれない

目の奥が熱い

でも…

『泣かない、泣く事なんて、許されないんだ、そう、私を許してくださる方を…』

自分は、昨日打ち倒したのだから


ぞろぞろぞろと、感覚のない脚の先から
たまらない悪寒が這い登ってくる

けれど、もう泣かない

それが、私のしたことなのだから

どうやってイーズのような強大な存在を
たかが、人間の自分、淫隷人ですらない自分が切り裂けたのだろう

そうだ…恵ちゃんが…言っていたっけ

エンジェルブレスが装着者の感情を増幅して強力な力を生み出すのだと

…お話していればよかった

そうすれば
イーズ先生も、ううん、イーズ様でも、うん、先生じゃなくたって、本当は良かったのに

うん

イーズ様だって

あんな簡単に…



「うわああぁっ!!超獣天装っ!!」

スーツを身につけた途端
身体を煮えあがらせた羞恥心

その羞恥の心が勇を激しく煽る

脇構えの姿勢

沈めた体

うつむき加減で左腰に軽く握った拳をあてて

淫隷学園異聞43

気合一番

ぐいと握った右手を左拳にあてて引き抜けば

淫隷学園異聞44

真紅の刃が流れて消える

すぐそばにいたイーズの右腰下から豊かな優しい左の胸まで
イーズの体表を投げれていたブランクノイズに
セイバーの光の帯がそこだけ張り付いたようにぎらりと光ると

淫隷学園異聞45

ごぼん

世界が外から内側へ

音を立ててへこんだ、つぶれた、捻じ曲がった

くたり

一瞬の間をおいて倒れ伏すイーズ

無論それで終わりではない

終わりではないが

淫空間に解けていた生徒たちの制服が転瞬、持ち主たちへと戻るのが契機だったように

呆然から、悲鳴の飛びかう修羅場へと、平和だった教室が暗転する

突入してきたジョウと恵

「みんなをっ!」
他の生徒たちを任せ、勇はイーズに向かい剣を構える

なんだろう

目の前が真赤だ

何かおかしい

おかしいが

「そ、そんな……私の魔淫空間の中で、正気を取り戻すなんて……!?」
「私を……いや、私たちの心を甘く見すぎなのよ!それに…それに、あんな格好させてーーーッ!!」

芝居がかったせりふの応酬

自分が、そう、どちらの自分か分からない自分が

ただただ、怒りを爆発させている

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

淫隷学園異聞46

突き出した両拳

かちんと揃えて大きく左に一振りすると

そのまま身体を左にひねる

淫隷学園異聞47

そして一瞬

淫隷学園異聞48

淫隷学園異聞49

裂帛の気迫とともに右手を左から右前へ水平に一閃

淫隷学園異聞50

淫隷学園異聞51

返す刀で中天から真下へと振り抜けば

淫隷学園異聞52

「ファルコンスラッシュ、十文字斬り!!」
「きゃあああああっ!!!ダークサタン様ぁぁぁぁっ!!!」

淫隷学園異聞53

淫隷学園異聞54

こうして、ライブエンジェルは学園を巻き込んだ魔淫空間を打ち破った。
勇は、友人達を巻き込んでしまった事実を噛み締め、改めて打倒ダーククロスを誓うのだった――。

淫隷学園異聞55

淫隷学園異聞56

呆然としていた香奈や真理

いつの間にか姿を消していて

皆その存在すら忘れてしまった淵根先生

先生がいなくなったのは、百合子先生が、もう人でなく
イーズ様の淫隷人に成れていたからなのだろうか

そう

イーズ様

イーズ様を消し飛ばしたその瞬間

イーズ様が消えるノイズになって崩れながら、最後に自分にあの顔で

優しいいつものあの顔でこちらを向いたとき

自分は『学園の』自分になった

とりあえずその場の収集を恵たちに任せると

淫気が消えうせたせいなのか、その日の記憶を根こそぎ失ったというクラスメイトたちを生徒たちを
残る教師たちを促して、ともかく家に帰らせた

かろうじてそれだけ終えたあと

気遣う恵やジョウたちと別れ

勇は一人で自室に帰り

真赤に汚れた自分の手を

じっと広げて見つめていたが

やがて、自分でも分からないのだけれど

『予習をしなくちゃ』

そう思いついたのだった

いくら、予習をしたところで

それがもう報われないものと分かっていながら
一人、どこか頭に杭を突き立てられたように
それ以外考えられずに

そして、そのうち
疲れ果て

やっと眠って…

そして迎えたのが

奇妙に晴れ晴れとした今朝だった

『*******』
『************』

『*******』
『************』

聞こえない

二人が何かを言っているが、頭の中に届いてこない

だのに、手が足が、そのまま機械のように動くだけ

制服が重い、この場所にふさわしくないこの制服が重い

脱ぎ捨てたい、この場で脱ぎ捨てて、身に着けるべきあの姿に、でも、もうそれを身にまとう資格は…

鉛のような心でそんなことをごろぐるぐると反芻していると

淫隷学園異聞57

がしっ

右手が

かっちり

左の手が

後ろから真理と香奈とに掴まれて

あっと振り向いて見上げたその先

淫隷学園異聞58

邪悪そのものという顔でにまりと笑った親友二人

そして、二人はついっと後ろに跳び下がり

はっと気づけば

淫隷学園異聞59

勇の周囲は級友たちに、生徒たちにぐるりっと取り囲まれて

視線を香奈と真理へとあわてて戻せば

二人は自分の制服の右肩をわしりと掴み

淫隷学園異聞60

途端

淫隷学園異聞61

二人の、周りの生徒の制服がどうしたものか、マントのような布切れに姿を変えて
その下

下に覗くのは

淫隷学園異聞62

ばさっ

邪悪なほどの笑顔たちがいっせいに掴んだ制服を中天へと抜き上げれば

そこには

淫隷学園異聞63

制服が

淫隷学園異聞64

そう、この場にふさわしい、もう自分が着る資格をなくした制服が

そして

「勇さ~~ん、いつまで、そんなもの着てますか~~」

そ、んな

「ほらほら~~」

淫隷学園異聞65

細くて、優しいあの指が

「せ~のっ」

淫隷学園異聞66

勇の右肩をかしりと掴んで

ばさっ

淫隷学園異聞67

「できあがりぃ」

解き放たれた

重い鎖が解き放たれた

セーラーカラーに、紅いタイ、健やかな身体を守ってくれる純白のIバックショーツ

軽やかな、自分の、自分の制服に違いない

そしていま、自分を解き放ってくださって、傍らに立つ百合子先生から、信頼のまなざしで見つめられているその人は

淫隷学園異聞68

「せ、せんせ、い、イーズ、先生?」
「そうよ~、忘れちゃったぁ~」

「で、でもでもでもった、たしかに、確かにわたしっ」
「あ~~、思いっきりやってくれちゃって、ふふん、勇さんやるじゃない~
もっとも、わたしがさせちゃったんだけどさ~~」
「は、ぃ?」

「あっはっは、ここがね~、恵ちゃんだっけ?あのこに見つかると、楽しくなくなるでしょ~
だっから~みんなをちょっとだけいじらせてもらったのぉ、準備が出来たら
そう、勇さんも含めて、一芝居、うん、みんな自覚はなかったから、動いてもらったってことかしらね~~」

「じゃ、じゃ、じゃ」
「そうよ~~、どの程度、淫気を漏らしてあげれば、気づくのか、これできっちり分かったし~~
 むふふん、もう二度と、そんな淫気は漏れないから、ちっとも潰れていないって
 これで思わないよね~?」
「せ、せんせぃ?」
「ごめんね~、でもさ、勇さんを悩ませたくなかったし~~
先に教えられないでしょ?
こ、れ、で、安心よ~」

「て、てごた、えが…」
「あ~~、これね~~」
イーズが白いレースをずらしてみれば、真紅の、真紅の帯がまだ
「!」
「大丈夫よ~、だいぶ持ってかれたけど、それまで溜め込んでたからね~
うん、いい太刀筋って、素人のわたしが言うのもなんだけど~あはっ」
「じゃじゃ、やっぱり、わたし先生に、刃をっ!」
「ばっかね~~、そうするように、ちょっと調整してあげたのよ~、だから気にしないの」
わしわしわしと、あの、手が指が、わしわしわしと勇の髪をいじる
「自分で、してるような気がしなかったんじゃなくて~?」
「あ!」
「ね、だから、お人形さんは駄目なの~~」
「は?」
「あは、いいのよ、そのうち分かるって、ん、勇さん、どうしたの、怒って…」

淫隷学園異聞69

その先を言わせる気などなかった

力の限り

抱いて

抱いて

抱いて

抱きしめて

淫隷学園異聞70

「先生、せんせ、せんんせ~」

泣いて

泣いて

泣いていいのだ

ここに、自分が抱いたこの腕の中に

いる、この人がいる

自分に涙を、許す方

人でなくとも、いや、もう、離さない

「イーズ先生、先生、先生、せんせい、大好きっ」

熱い、涙が熱い、熱い熱い、熱くて、心が温かい

「あ、あははっ、赤羽さん?」

「先生~、大好き~~~」

「ちょ、ちょちょっと、い、勇さん?」

余裕綽々のはずのイーズの声に切迫したものが混じる

「せんせぃ?」
「先生?」

淫隷学園異聞71

イーズを抱きしめる勇からは見えないが
イーズの眼には、昨日の小癪な勇の技どころではない、巨大なオーラの柱が二本見える

「ちょ、勇さんお願い放して」
「放しません、放しません、先生、イーズ先生~~大好き~~~」

「駄目、駄目だって、昨日持ってかれたから、今日は危ないんだってば~~~」

「くすっ」
「うふふふふふふ」

淫隷学園異聞72

学園は、今日も平和

爽やかに吹く風が、悲鳴と、轟音を、優しく包んで、吹き抜けていった






エピローグ

 淫怪人
「イーズは二度…」


「あ~もうもうね、ったく危うく、川向こうで、『あの方』にお目に掛かる所だったじゃない~」

自慢の銀髪が、ぐるぐるぐると、白包帯で巻かれている
三角巾で吊られた腕が痛々しい

でんと置かれた執務机に立掛けられた松葉杖

「え、『あの方』って、あちらにいらっしゃるんですか?」
「いませんよ~、もうっ、たとえよたとえ、んっとにもぅ~~」

思わず聞き返した勇に、律儀に応えるイーズは元気そうではあるが
先刻、勇に見せた胸の十字傷以外に、ブランクノイズのそこいら中が紫色だったり
薄紅い斑紋に覆われていたりして

そこはまだ、ぐるぐるぐると、寄り添う百合子が、かいがいしく包帯を巻き続けていたりする

もっとも、傷薬はおろか、湿布薬すら塗られたり、貼られたりしていないところを見れば

これも、お遊び、演出というやつかもしれないが

申し訳なさそうな、香奈と真理

二人に挟まれて、何が起こったのやら、いまだに理解できていない勇

「はぅ~~、ほんっとにね、勘弁してねぇ~~~」
「でもでも、先生、一体何があったんですか?すっごい音がしたと思ったら
 私は、吹っ飛んでるし、イーズ先生は、校庭にめり込んでるし
 ジョウや恵ちゃんたちが乱入したのかなって、一瞬思っちゃった
 ね、ね、香奈や真理は見てなかったの?」
「さ、さぁ、あ、あははっは、ねぇ香奈ー」
「え、ええ、ええ、わたしも何が起こったのか、すごい砂埃で、ね、真理さん」

二人の目が思いっきり、泳いでいるが
どうやら本気で気付いていないらしい勇は頭の上に大きな疑問符を浮かべるばかり

「はぅ~、もうね、勇さんが、とんでもないこと言い出すからですよ~~」
「へ?」
「私のことを、大好きだとかなんとか~~」
「だ、だって」顔を赤らめる勇

理事長室に、またまた凶悪なオーラが立ち昇りかけるが

「でしょでしょ、香奈も、真理だって、先生のこと大好きでしょ?でしょ?」
「はぁー」
「ふぅ」

「あ~~~~っ、もうもうもうね、ため息吐きたいのはこっちですよ~~、赤羽さんっ!」
「はっ、はい、何でしょうイーズ先生」
「勇さんは、今日いっぱい、淫語の補習ですっ!」
「え~~~~~っ」
「ったく、この、自覚無しの爆弾娘さんは、ちょっとばかり、矯正の必要を感じますね~~
 ホントなら、誰か関係のない適当な生徒さんに勇さんの補習を手伝わせたいところだけど~~」

またまた、高まる凶悪なオーラ

「これ以上、学園や、このわたしまで危険にさらすわけにも参りませんからね~~
 香奈さんっ、真理さんっ」
「はぃ」
「はーい」
「もうね、勇さんがも少し自覚を持つように、徹底的に、補習させなさい
 いいですか、後ほど、点検に参りますからね~~
 手なんか抜いたら、先生、承知をしませんよ~~~~」

ぎろりと睨むイーズ
最敬礼で応える二人

「よろしいっ、では、これ以上先生の生傷が増えないように、とっとと行ってらっしゃいっ!」

「???」

どうして自分がと更に頭上の疑問符を多くした勇を先に扉の外に押し出すと
二人はイーズにウインクを寄こして、素早く執務室をすべり出る

「ふう、もうね、今日だけは、どうなることかと思ったわ~~
(ぐるぐる)
 まったく、淫怪人って、ホントに人間超えてるのかどうか怪しいわよね~~~
(ぐるぐるぐる)
 女の子二人に、地面に突っ込まれたなんて、『あの方』に聞かれたら、降格もの…
(ぐるぐるぐるぐる)
 ちょ、ちょっと百合子
(ぐるぐるぐるぐる)
 くっ、くるし
(ぐるぐるぐるぐる)
 ゆり…
(ぐるぐるぐるぐる)」

「み、皆さんの、生徒の、皆さんの前で、い、勇さんに、ただの生徒さんに言われちゃうなんて」
ぶつぶつぶつと、つぶやきながら包帯を
巻くというよりは無意識に締め上げる百合子

「い、言いたくっても、が、我慢、我慢してるのに、淫隷人だから、学園だから、我慢…我慢してるのに
 好きだって、大好きだなんて言われちゃった…」

「ゆ…、…り、……」
(ぐるぐるぐるぐる)



学園は今日も平和

ただ、イーズの復帰にはその後、数日かかったという



"Live Falcon will waile twice"

Written by "Enne" and An original produced by "Wabuki"

and

Drawing by "Wabuki"


                    The sweet brain washing will never…end !

                                            「赤羽 勇は二度なく」  END

コメント

良かった生きてた!
だが真の危険は思わぬところに潜んでいたのか…

>親御さんに相談
それは「あのお方」か「わぶき様」かどっちか!?
ですが私にとっては「あのお方」より「うちの社長」の方が怖かったりもします…

  • 2009/05/28(木) 01:31:52 |
  • URL |
  • アクノス所長 #LkZag.iM
  • [ 編集 ]

何回読んでもやっぱり淫語2はエロいわぁ~

  • 2009/05/28(木) 04:10:45 |
  • URL |
  • kskする名無し! #VWFaYlLU
  • [ 編集 ]

 まあ、合体TFは一箱あたりのコストも影響しているのかもですね…。

 それはさておきこの話、通じてみると「さわやかな悪堕ち」と言う事でいいのでしょうか。
 古きよきさわやかな青春劇のテイストで進行する悪堕ち…知らず知らす染められる怖さもなかなかですし。

 しかし、こう見ているとこちらもライブ系で何か書きたくなりますね。
 悪堕ちがチョイ苦手の分はフェチでカバーと言う事で(笑)

  • 2009/05/28(木) 07:09:05 |
  • URL |
  • カギヤッコ #/k8K4ErU
  • [ 編集 ]

長っっ!
まとめると、終わりまで遠いので、連載の方を読ませて頂きましゅ(笑)
人それぞれなんでしょうけど、合体Boxにはまとめて読める以外の特典はあるんですか?

  • 2009/05/28(木) 13:32:46 |
  • URL |
  • 神代☆焔 #-
  • [ 編集 ]

エピローグも面白いですねw
イーズ様を校庭にめり込ませるなんて…香奈ちゃんと真理ちゃん凄いw
イーズ様を超える淫怪人になる事間違いなしですねw

そして百合子先生も嫉妬の余り包帯責め…
イーズ様、しばらく気が休まる暇が無さそうw

  • 2009/05/28(木) 20:37:13 |
  • URL |
  • Mizuha #-
  • [ 編集 ]

>所長さん
ちちち、育ての親は今回の作者たるEnne様ですね。
ここまで弄って頂いた以上、イーズは俺一人の子ではなくなっておりますゆえ。

>kskさん
ねー。
エロいよねー。

>カギヤッコさん
確実に不幸になってるのに幸せに見える。
この構図に気付いた時、新たなエロスが見出せるのです。

>神代☆焔さん
まとめて読まないと分からない仕掛けというか、文章の技術に気付けます。

>Mizuhaさん
そう言われれば、あの二人はかなり強力な淫怪人になれますな…
多分、本編かどっかでまた出番があるでしょうね(笑)
そしてイーズ周辺の百合臭は異常なレベル。

  • 2009/05/29(金) 02:20:53 |
  • URL |
  • わぶき #-
  • [ 編集 ]

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